コラム

日本人に適したポジションを徹底的に追求

2021.07.23


STORY15

バイクを楽に、そして気持ちよく走らせるには適切なライディングポジションがもっとも重要だ。

それは卓越したライディングテクニックを持つ樋渡にとっても同じで、BMWでツーリングに行くようになり、どうにもポジションが合わないことに不満に感じるようになった。

外車、その中でも特にBMWは180㎝くらいある大柄な欧米人が乗ってフィットするポジションになっているため、日本人の平均身長の樋渡(173㎝)にはハンドル位置が遠く、ハンドルのグリップの角度が水平すぎて長距離ツーリングのときに手首と手のひらの外側が痛くなりやすかったのだ。

そこで、またしても樋渡は自分が乗るならこうじゃなきゃと、バイクをもっと操りやすくなる位置にハンドルをセットできるパーツ、ハンドルセットバックライザーをアルミ削り出しで製作することにした。

最初に商品化されたのは空冷のBMW・R1200GS用で、ハンドル位置はノーマル比で38㎜バック、15㎜アップするもので、グリップの位置も少し下がり気味にして、手のひらが痛くならない工夫が加えられていた。当然、この位置を決めるために実装テストを何度も繰り返して、最適な位置を決定。

以来、このハンドルセットバックライザーはBMW用を中心に、国産車用もラインナップされている。

左が空冷R1200GS(08~12)/GS-ADV(08~13)ハンドルブラケット Type1(税込4万9500円)。約38㎜バック・約15㎜アップするが、ハーネスやホース類の交換は不要でボルトオンで装着できる *この当時は、まだハンドルセットバックライザーではなく、単にハンドルブラケットと呼んでいた。右の装着写真は空冷R1200R(11~14)用。ホルダー上面に波状の加工が施されているのが分かる

アールズ・ギアがラインナップするハンドルセットバックライザーは、ブレーキホースやワイヤー類などはすべてノーマルのままで装着できる。ほかのパーツは一切換えることなく、つまりユーザーの負担を増やすことなく理想のポジションを追求しているのである。

また、このパーツの細部をよく見ると、細かい工夫が随所に施されていることが分かる。

そのひとつがホルダー部の表面形状で、日中、太陽光が反射してライダーがまぶしくならないようにと波上の切削模様と縦に入る溝を設けてある。こうすることで、ホルダーに当たった太陽光が乱反射して、直接ライダーの目に届かなくなるのだという。

また、雨の中でのツーリングの際に、ハンドルセットバックライザーのボルト穴に水がたまらないようにと、ボルト穴の横に小さな水抜き用の穴が開けられているモデルもある。これも、実際に雨中のツーリングを何度も経験している樋渡だからこその小さな工夫なのである。

色褪せを防ぐために、なんと七宝焼きをチョイス!

そして、このパーツにはもうひとつ大きなポイントがある。驚くべきことに、すべての車種用のハンドルセットバックライザーに七宝焼のワイバンマークが入っているのだ。

はじめは樹脂コーティングしたアルミ製のワイバンマークを使用していたそうだが、どうしても日光を浴びて色褪せしてしまうため、樹脂でマークを製作していた工場に相談。すると、色褪せを避けるなら七宝焼きにするしかないと言われたという。

樹脂から七宝焼きに変更すると、当然、コストがアップしてしまうから、普通ならここであきらめるのだろうが、とことんクオリティにこだわる樋渡は七宝焼きにすることを決めた。高級な外車のエンブレムなどにあったような気もするが、バイクのパーツに七宝焼きなんてほとんど聞いたことはない。まさに樋渡らしいエピソードである。

↑すべてのハンドルセットバックライザーに付いている七宝焼きのワイバンマーク。ここまでされると、ユーザーとしてはうれしいを通り越して感激してしまう

ビレットパーツには、そのほかステップが用意されているが、これも考え方は同じで、日本人の体格に合うようにライディングが楽になり、長時間乗っても疲労を感じない位置に足が置けることを目的としている。したがって、いわゆるバックステップではなく、膝の曲がりが緩くなるようにノーマルよりもステップ位置が下に来るローダウンステップとなっている。

R1200GS(04~12)/GS-ADV(06~13)ローダウンステップ(税込2万6400円)。ステップ位置を23㎜下げることで膝の曲がりを軽減して、長距離走行のときの疲労度を軽減してくれる

マフラーと同様、さまざまな工夫と作り込みがなされているアールズ・ギアのアクティブ・コンフォートシリーズのビレットパーツだが、今後は国産車用も含め、ラインナップをどんどん増やしていきたいと樋渡は言う。

シリーズ最新作はマスターシリンダーキャップの新バージョンで、これまでとはまったく違う立体的な形状としている。キャップというよりもノーマルのキャップの上にかぶせてボルト留めし、シリンダーキャップをガードする役目を果たしてくれるので、マスターシリンダーガードという商品名を採用している。

ほかにも構想中のビレットパーツがあるそうなので、登場を心待ちにしていてください!

<STORY16に続く>