コラム

オペレーター不在なのに超高性能・切削マシンを導入!

2021.07.09

STORY13

アールズ・ギアの工場には、アルミパーツなどの切削加工をするためのマシニングセンタが2台設置されている。

1台は、曲面など複雑な形状に加工することが可能な5軸のマシニングセンタ(上写真奥)、もう1台はエキゾーストパイプのフランジなど、汎用部品などを量産するのに適している3軸のもの(同手前)。

そして、このマシニングセンタを導入した際にも、樋渡らしいエピソードがある。

BMWのマフラーを開発するためにBMWに乗り始め、それが高じてツーリングライダーとなった樋渡は、ツーリングをするたびにもっと楽にバイクを扱えるようにするための機能パーツが欲しくなり、アルミ削り出しのパーツ=ビレットパーツを外注して作り始めた。

しかし、機能に加えて美しさも徹底的に追求する樋渡の注文に、外注先からはそんな面倒なことはできないと断られることもしばしばだったという。

そんな状態が続く中、思い通りのモノ作りができないという不満がどんどん樋渡の中に蓄積して、ある日、マシニングセンタを導入してビレットパーツを自社製にすることを決意した。そして、選んだのがもっとも複雑な加工が可能な5軸のタイプだった。

↑大きなアルミブロック(写真のものは左右600㎜×天地300㎜で厚さは50㎜)を「バイト」で削り、プログラムどうりに複雑な形状のパーツを作ることが可能な5軸のマシニングセンタで加工中のRebel用ハンドルセットバックライザー。片面を削ったのちに、このブロックを裏返して逆面を削り込んでいく

しかし、その当時のアールズ・ギアにはその機械を操作できるオペレーターも、ビレットパーツを設計できるスタッフもいなかった。マシニングセンタを扱っていた会社の営業スタッフも、「オペレーターもいないのに、こんな高性能な機械を買うのですか」と驚いたそうだ。

その営業スタッフは、こんな会社と付き合うのは初めてだと大いに困惑したそうだが、どうせ導入するなら自分が望むモノを、望むクオリティで製作できる性能を持った機械がどうしても樋渡には必要だったのだ。

とにかくモノつくりには一切の妥協をしない樋渡、そしてアールズ・ギアの考えが、徹底して貫かれているのが分かるエピソードである。

スタッフも困惑する樋渡の徹底したこだわりよう

そのマシニングセンタを導入してまもなく、即戦力になるオペレーターを採用して、いよいよ本格的にアールズ・ギア製のビレットパーツの製作が始まった。

ただし、ここでも樋渡の性能と美しさを追求する徹底した姿勢がスタッフを困惑させた。

出来上がったパーツを見て、機能は十分だけど、外観をさらに魅力的にするためにここにもう1本、デザイン的なラインが入ったらいいよねと樋渡が言うと、スタッフはそんなことをすると時間がかかるし、工数も増えるからコストアップにもつながると、ある意味、正論とも言える返答をする。しかし、樋渡は購入したお客様のことを考えたら、もう1本ラインを入れるべきだと絶対に譲らないのだ。

↑日本人の標準体型だとハンドル位置が低くて遠めのBMWには、ハンドル位置がアップするのに加えライダー側にセットされるハンドルブラケットを用意。左がR1200GS/1250GS/GS-ADV用、右がR1200RS/R1250RS用で、高級感をアップするために七宝焼きのエンブレムが付けられている

マフラー同様、機能パーツであるのに加え、外からしっかり見えるビレットパーツはドレスアップパーツでもある。ならば、少しでも高級感があって、樋渡自身も満足するクオリティじゃなければアールズ・ギアの商品ではない。

また、試作品が出来上がったパーツはバイクに装着して樋渡が実走テストを行うのだが、ハンドルブラケットの上側のパーツに必ず波状の切削加工を行っているのもそのテストの結果から導き出されたもの。切削加工による溝がなく表面がツルっとしたままだと、太陽光がそこに当たって乱反射してライダーの視界に入ってしまうため、それを防止するためひと手間かけて溝を刻んでいるのである。

↑写真上の中央右寄りにあるのがアルミブロックを削る「バイト」。このバイトがプログラムどうりに自動でアルミブロックを削っていくのだ。写真はハンドルポストの上側パーツで、表面に波状の加工が施されているのが分かる

また、雨中のツーリングの際に、パーツのボルト用の穴に水が溜まってしまわないように水抜き用の小さな穴を設けているなど、実際のツーリング経験から「あったほうが性能も満足度も上がる」と思ったことはすべて行っている。

確かにコストのことを考えたら手間のかかることはできるだけしないほうがいいけれど、結局、そこまで手が込んだ誰もが認める高いクオリティを持つパーツを作ると、それを手に入れたユーザーはかなりの高い確率でアールズ・ギアのファンになり、再び、アールズ・ギアのパーツを買ってくれるリピーターになってくれるのだという。

ファンつくり、ブランディングがいまやどんな製品を作るメーカーでももっとも重視していることであるが、自分が満足のゆくモノつくりをしたいという樋渡の気持ちが、自然に熱烈なファンを増やし、アールズ・ギアブランドを確固たるものにしていると言えるだろう。

(STORY14に続く)